武水しぎの

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「居住」と「宿泊」

2009年3月19日

賃貸住宅において「住む」ことの対価は、と問えば、「家賃」というのが通常の答えであろう。
実際、敷金問題から始まった、賃貸業界における消費者保護運動は、更新料や礼金を撤廃要求の対象とし、最終的には支払名目を賃料に一本化することを目指しているように思う。
礼金は賃借権という権利に対する権利金だ、と言われることもあるが、賃料さえ払えば賃借権は認められるので、イマイチ歯切れが悪い。
「賃料への一本化」
は初期費用を強く抑える傾向にある昨今の賃貸情勢では、消費者保護運動の大義名分とは全く別に市場のneedsとして現実化しようとしている。
そして賃料の下落も著しい。


さて、お金を払って寝泊りする部屋を借りる事業には主に2種類ある。(ほかにも社会福祉事業や会員制宿泊施設などもあるが煩雑になるので触れない)
いうまでもなく、一つは賃貸住宅、そしてもう一つは旅館である。
まったく違う業態のように思われるかもしれないが、たとえばマンスリーマンションには、賃貸住宅系のものとビジネスホテル系のものの2種類があり、それを規制する法律も異なる。
ビジネスホテル系のマンスリーマンションは旅館業法に基づいた営業で、契約に相当するものは宿泊約款である。契約書を作る必要も重要事項説明をする必要もなく、宿帳に住所氏名を書いてもらうだけでよい。そして正当な理由がなければ宿泊を拒否できない。
賃貸住宅系のマンスリーマンションは借地借家法に基づいて定期借家契約を締結するのが一般的なやり方。契約書や定期借家契約に定められた文書を作る必要があり、仲介業者がある場合は、重要事項説明も要る。そして特に理由なく契約を断っても構わない(それで商売がなりたつかどうかは別の問題)


そもそも「宿泊」と「居住」というのは違うはずなのだが、マンスリーマンションのようにどちらかわかりにくいものがあるのも事実なのである。
ほかにも、簡易宿所(旅館業の施設)は「生活の根拠地」として住民登録して生活保護を受けることもできるし、生活保護を受けなくてもそういう生活の根拠にしている人はけっこういたりする。
じゃあ、借地借家法の施設であれば「居住」なのか、というと、たとえ定期借家契約でも短期の滞在ではそうはいえまい。と、いうことで税務上は1ヶ月未満の入居は「生活の根拠地」とは見なさず、賃料に消費税が課税される。簡易宿所の宿泊料は当然「賃料」ではないので消費税の課税対象だ。


生活保護受給に関する運用や、税務署の課税に関する基準は、施設が基づく法律ではなく実態に即して定められたものゆえに曖昧になるのである。
もちろんこれらは実態に応じて運用されることが望ましいのはいうまでもない。

「実態に即して」と書いたが、「そこに住んでいる」という実態は同じでも、実は居住者の持つ権利は、借地借家法であるか否かで天と地の違いがあるのだ。
借地借家法では、契約違反があっても入居者を強制的に退去させることは、裁判手続きなしでは不可能である(違法覚悟でするところがないわけではないが)。賃借人の居住権はそれほどにまで保護されている。

それに対して、旅館業等では、このような借主の保護はない。宿泊料の未納者を問題なく追い出すことができる。これは違法行為ではない。施設管理者が部屋に立ち入ることも自由にできる。
そして「宿泊料」は一般的に「賃料」よりも高い。ただし入居時の一時金はいらないし、契約するのに保証人も普通はいらない。


マンスリーマンションやゼロゼロ物件の登場は、支払形態の上で「借家」が「旅館」に近づいて行っているのである。賃料のみの契約が普及してゆくと、さらに境界はわかりにくくなってゆくだろう。
問題が起こったときにモノを言う貸主借主の権利の強さは、契約が順調な時には意識されず、支払金額が意識されるのみであることもわかりにくさを助長させる。


こうしてみると、借主が借地借家法における借主としての権利を持つことの対価として、貸主が信用の担保を求める権利、権利金(あえてこう呼ぶ)を請求する権利を持つことは、決しておかしなことではないと思う。
権利を行使するかどうかは、また個別の契約において考えることである。

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