「かり住まいの輪」
★被災した方々のために、空室のご提供を
という運動が、賃貸住宅業界から起こっています。
まずは、行動を起こされたことへの賛辞を。
なにかしたいと思っても、実際に行動を起こすことは難しい。このような動きがあることは素晴らしいと思います。
なお、私はこの運動には現時点では参加しておりません。当地は関西ですので、こちらへ来たい方があれば支援を惜しみませんが、被災地地元の復興を考えれば、被災地近隣での生活が望ましく、適した住宅提供形態は仮設住宅であると考えるからです。
私は阪神淡路大震災(兵庫県南部地震)は経験しましたが、避難所や仮設住宅や震災ボランティアの経験はありません。神戸YMCAでキャンプリーダーをしたり、親戚や友人の家が芦屋や西宮だったりしたのでうろうろはしてました。
という人間が書いているものとしてお読みください。
自分の物件の空室を提供したいと考える、家主のみなさまへ
自分の「なにかしたい気持ち」を生かすために。
この運動に限らず、空室の提供を考えておられるのであれば、以下の点に留意して、自らのできることを考えていただければ幸いです。
避難所と仮住まいは違います
避難所は本当に一時的に身を寄せるところです。
結果的に長期になることもままありますが、通常は長くても数カ月です。
本当に最低限の身の安全と衣食を提供する場所であり、「住」ではありません。
現在、被災地近隣の旅館等で行われている避難者受け入れはこの形です。
民間賃貸一般でもこの形の受け入れは可能ですが、賃貸借契約の締結は普通借家であれ、定期借家であれなじみません。基本的に無償提供であるからです。
仮設住宅に代表される仮住まいは「住」です。
生活再建の基盤となる場所であり、それなりの援助は提供されますが、入居者の自立が原則になってゆきます。
利用期間は年単位です。入居者=被災者とは一定の契約関係=権利関係が生じます。
コミュニティ・地縁・血縁の維持が大事です
阪神淡路大震災の時は、仮設住宅およびそこからの退去の際、コミュニティ喪失による孤独死や自殺が問題となりました。
また、被災者は地縁を重視して、遠隔地の親戚よりも今までのご近所どおしでの入居が可能な仮設住宅を選ぶ傾向が強くあったように記憶します(統計データを見ていってるわけではありませんので、おもちの方は教えてください)
平時においても、特に高齢者は住みなれたコミュニティが重要であり、引っ越したとたんの持病の悪化や認知症の悪化はよく見られます。
東日本大震災(東北太平洋沖地震)は、阪神淡路よりもはるかに被害規模が大きく、よって生き残った地縁血縁の重要さは言うまでもありません。
民間住宅の空室ストックは数多くありますが、各地に散在しており、コミュニティを維持したままの受け入れは不可能であるとの自覚が必要です。
すなわち、孤独死等の事故が発生する確率が通常以上に高くなることを覚悟してください。
コミュニティを維持するためには、被災地になるべく近くに集落単位で仮設住宅を設置するのがよく、場合によっては集落自体が移転する形になるでしょう。民間賃貸一般にその規模での受け入れキャパシティはありません。
仮設住宅代わりの民間住宅として有効なのは、被災地近隣、もしくは被災地と交流の深い地域のごく一部の物件に限られます。
それでもなお、今後構築されるであろうさまざまな支援ネットワークからこぼれてしまいやすくなることは覚悟して対策を立てておかねばなりません。
仮設住宅が追いつかない場合においては、まずは大阪府や高知県が表明しているような公営住宅の出番です。一棟あるいは一団地あたりの戸数が多い方がいい。
民間住宅一般はその次であるべきと考えます。
なお、以上はマスでの考え方であって、これになじまない個別事例については、むしろ志ある民間住宅と支援ボランティアのタッグが力を発揮するでしょう。
その意味での「かり住まいの輪」は大いに評価していますが、各機関や支援ボランティアとの適切な連携がなければ無為にひとしいので、その実現に向けて最大限に努力する必要があります。
また今回の災害規模は未曽有であり、「かり住まいの輪」運動へ参加するしないは別として、遠隔地においても有効な「住」ストックをあらかじめ提示しておくことは、被災者への適切な配分を考える上で無駄にならないと思います。
鬼、と呼ばれる覚悟はありますか?
あえてセンセーショナルな見出しを付けました。「鬼」ではなく「火事場泥棒」でも「貧困ビジネス」でもかまいません。(ちなみに私は「貧困ビジネス」を一概に否定しません。ただ、善意の皮をかぶるのが嫌なだけです)
「住」を提供するというのはそういうことです。きれいごとではすみません。
仮設住宅撤去時に起こった問題を思い出しましょう。
また、滞納事故発生率も通常より高くなります。
その時になって、「鬼」になって明渡訴訟を行う覚悟がありますか?
生活保護等に結びつければ、とお考えの方。
「貧困ビジネス」と言われようと、信念を貫く覚悟がありますか?
服のある事業所は服を、ポンプのある事業所はポンプを。これらは必要なところに動かせます。
しかし、住宅は動かせません。
われわれは空室があるから空室を提供するのだ、との「なんとなく支援」「単純な善意」では、押しかけボランティアとかわりません。
鬼になるぐらいの覚悟があれば、コミュニティ維持面はから不利な民間賃貸でも、その情熱で勉強して必要な支援をある程度提供できるかもしれません。
今は「被災地に何かをしたい」という情熱に嘘はないでしょう。しかし、「住」は何年にもわたります。何年にもわたってその覚悟を持ち続けるのはただならぬエネルギーが要ります。
特に遠隔地物件の場合は、被災地の復興支援ではなく、ゼロからの移住支援であることを自覚しておく必要があります。
原発リスク
今回の災害での焦点の一つが原発です。
津波被害は甚大でしたが、被害規模を定量することができつつあります。
原発については、まだ予断を許しません。
定量とリスク評価がまだできる段階ではありません。
したがって、どの程度を「罹災」扱いするのかもまだわかりません。
自分の意思で動ける=震災被害がなかった、あるいは比較的軽微であった方々の一部が自主避難で西日本へ移動しているとの話もあります。
短期的にはホテル等の宿泊施設や親せきを頼るのでしょうが、わが業界ではマンスリーマンション等は現時点では需要に適した施設に思えます。
が、期間と規模によっては避難者の経済的な負担が問題になってゆくでしょう。
こちらについては、まだ考えがまとまらず、本エントリの趣旨とはずれてゆきますので、この辺でやめときます。
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